一宮庵

 

斎藤宗厚先生
ロワールのシャトーで村人を招いて茶会を開催。
早朝にお散歩する斎藤宗厚さんは、
僕にとって人生の師匠でもあり、愛の人。

 

この世はすべて風の如く、水の如くに。
風水のシステムは、古代中国の陰陽五行説をお手本にしている。
その哲理は、天地の間に流れる木・火・土・金・水の循環。

「これは元気の素なのよ。木から火を、火から土を、土から金を、金から水を、
そして水から木が生じるわけ。この原理がつまり相性(そうしょう)となるわけ。
その反対が相克(そうこく)ね。男女の相性はもちろん、そう食事にも相性があるの」

東京・成城のお屋敷街で茶懐石料理教室「一宮庵」を主宰する斎藤宗厚さんが、
ほのぼのとした柔らかい笑みを刻む。
毎月6日は、風水の原理をもとにした風水会席の日。
撮影、取材の疲れを癒し、さらなる元気をもとめて僕は「一宮庵」三昧なのである。

 「気の元が元気なのね。根性をつけたけりゃ、ゴボウなどの根菜類、そう、旬の
食材にはカミガミが宿っているのです。健康と幸せを一緒に手招きしましょう」

 かつて齋藤寅次郎監督のもとで名子役を演じていた彼女の話術、食術、生活術は
まさに元気の素なのである。

 


 

 朝 茶 

文・料理 / 斎藤宗厚

 

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井上勝江作、版画をモチーフにしたガラスの衝立 

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朝茶の杯事は長崎のちろりと江戸切子杯で爽やかに 

 毎年八月の一か月間、一宮庵では毎朝六時開始の「朝茶事」をします。夏の盛りに催す朝茶は、とかくだれてしまう日常の暮らしに爽やかな風を送る手だてともなります。お客様も各地から始発電車でみえる方、前日から知人宅へ泊まっていらっしゃる遠来の方など様々です。

 私たちの一か月は午前三時に起床。起き抜けに東を向いてオレンジジュースをコップ一杯いただいて、爽やかに朝を迎えます。風水の「東」「朝」「酸味のもの」というのは実際とても相性がいいのです。

 あるじの最初の仕事は、外の水まき。前夜びっしょり水を打った露地に、さらに朝露に加えて打ち水をすると、眠っていた蚊を起こして、たちまち手足は赤く腫れ上がります。私は台所でだしを取り、お米を研いで、昧噌汁、器と準備を整える四時半ころには、東の空が白んで、小鳥がさえずり始めます。四時四十五分きっかりに、学校の先生をしている生徒さんが、五時には新婚の奥様がお手伝いに現われます。人の情けに支えられてつづいている朝茶事です。

 広間の小さな窓から、朝日がまっすぐに差し込んで、梢の緑を透明に輝かせるこの瞬間! 先を歩まれたお茶人方は、なんと幸せな時を残してくださったのかと、感謝のこころでいっぱいになるのです。

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やる気と金運の風水デザート

 
 朝茶事の懐石は、夏野菜を主役に、軽やかに調えます。
「夏は涼しく、冬は暖かぎょう」の心得通り、夏のもてなしのこころは涼しさの演出に尽きます。ガラスの器は食べ物を生き生きさせるばかりでなく、キラキラ照り返す光は大脳を刺激して、若々しい活力の源になるのだそうです。シャリシャリ、コリコリ、シャキシャキという、元気のいい歯ざわりの音も涼しさの一つでしょうか。耳に伝わる食べ物の音は季節感を表わす大切な要素です。歯ざわり、口あたりを良くするコツは、繊維質のものは繊維にそって縦に縦に切ること。そうすれば素材の持ち味も生きてきます。

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バカラのグラスにじゃがいものなますを盛って
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海亀のような茄子の揚げ浸し

 バカラのグラスに盛った「じゃがいものなます」は一宮庵の夏を代表する一品です。眼に爽やかで、甘酢の香りが鼻をおだやかに刺激し、口に入れればシャキシャキと生きのいい昔がして、舌に感じる昧わいは慈味深く、そのすべてが総合されて、こころに響くご馳走となります。士うまくしたもので、夏野菜は体の熱を奪ってくれる食材です。

 「秋茄子は嫁に食わすな」ということわざがありますが、これはお姑さんの意地悪ではなくて、体を冷やす茄子を食べすぎないようにという、大事なお嫁さんへの気づかいです。グルメをもてはやす時代、高価な素材や、品数を競いがちですが、素材の持ち味を充分に識って、有難くいただき、五感のすべてを満たすようにつくった料理こそが、本物のグルメ(美食)だと思います。

 

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朝6時から始まる朝茶のしつらい

 

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次回は 『 お月見とツキ 』 のお話です
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