田舎犬ジロウ

 
ジロウは若いころも時には東京のアパートに滞在することがありました。
  しかしなにせ田舎者ですから都会のピカピカのガラス戸なんて見たこともありません。アパートのロビーで紐を振り切って走り出したヤツは、外に出られるつもりでガラス壁に向かってDASH! そして激突! 
 
  ハナッ柱をしこたまガラスにぶつけてクシャン、フガフガ、ブーガークシャン、、、。
  首を振って怒っていました。やっぱりポチくんみたいな洗練された都会犬とは違うんだよ、オマエは!

浜の家で。 砂地が気持ちいいんだ。ン? なにかもらえるのかな、ワン!
 うまいもののためなら、おすわりでもおまわりでもなんでもしちゃうぜ。

 

 

 

クロです。 
キュート犬に見えるかしら? ちょっとおすまし。


クロに初めて会ったとき


 
あれは秋でした。私は埼玉の実家に帰ると犬に会うのが楽しみでしたから、駐車場から庭に抜け、ジロウー、ジロウー、と放し飼いのジロウを呼んでいたのですが、なかなか出てきませんでした。いつもなら、どこかの藪から跳んでくるのですが。声を張り上げて再び歩きながらジロウ、と叫んでいたら、突然、右前方の竹やぶから、黒い毛玉の弾丸のようなものが転がるように走ってきて、ブレーキをかけても止まりきれず私の右足のスネにコテッとぶつかって止まりました。小犬でした。そして私の顔を見上げるのです。

  その眼差しは、アッ、間違った!!、とちょっとがっかりしていたようでした。私は 「あれっ、おまえダレ?」と言ってしゃがんで頭をなでてみました。これがクロとの初めての出会いでした。クロはまもなくどこかへトボトボと行ってしまいました。きっと私を元の飼い主のおねえさんと間違えたのですね。
 
 家にはいった私は、あの黒い犬、だれ? と家人に聞きました。皆知らないのですが、数日前から庭に時々出入りしているよ、とのことでした。
  その日はもうクロを見かけることはありませんでした。

 



なんでオレのふとん取るんだ。さっきまでダブルベットで、クロちゃんの腰まくらでゴクラクだったのに。 
オレはすねちゃうぞ。ま、でも、ご主人のゴムゾーリのにおい嗅げるからいいか。


クロのその後


 後でわかったことですが、どうもクロは生垣の脇の小道沿いにあった自転車置き場に捨てられていたらしいのです。見ていた人の話では、3日間は捨てられていた所でじっと待っていた、ということでした。その後は近くをうろうろしてはまたそこに戻る毎日だった、とか。
 
  生垣の隙間からうちの庭に入ってきては、なぜかジロウと気が合い、ジロウもかわいがって、いっしょにじゃれてゴロゴロ転がってあげたり、自分のごはんの残り物をクロに譲っていたのです。はじめは 「あの黒い犬」、と呼ばれていた小犬も、そのうち短縮形で「クロ」、と呼ばれるようになりました。また来てる!、ジロウの遊び相手だからいいか、と、なんとなく家で認知されるようになりました。
 
  いずれ飼い主がお迎えにくるかも、とあえて繋いだりせず、自由にさせておきました。だんだん大きくなってきて首輪がきつくなり、ものを飲み込むにも少しずつしか食べられず、気道も細くなるせいかすぐゼーゼーいうようになったので、鈴のついた緑の子犬用首輪を一度はずして、ひもで延長してあげてはめなおしました。
 
  こうしておかないと、前の飼い主がわからないかも、と思ってのことでしたが、すぐにどこかに無くして帰って来ました。
ひとみしりする犬で用心深いため、近づくとうなられることもありなかなかなつきませんでした。


  しかしこのころジロウには絶対服従で必ずジロウの後ろを1歩下がって付いて歩いていました。2匹で散歩のとき、オシッコしてしゃがんでいるクロの背中にジロウが右足を上げてチャーッと自分のオシッコをひっかけることもありましたがクロはおとなしくしていました。だんだん私が呼ぶと来てくれるようになり、なかなかさわらせてくれなかったクロでしたが、私が手を頭の上にかざすと両耳が少しずつ後ろへ動くようになり、繰り返すうち耳を寝かせてなぜさせてくれるようになりました。 
 
  まるで能面のように無表情だったので、クマの子みたいね、と言われていたのが徐々に目に親しげな表情がでるようになり、本当にうれしかったです。そしてだんだんシッポを振るようになってきたのも驚きでした。始めはぎこちなく、そのうちバサバサと振れるようになりました。

 その後も庭を出たりはいったり、食事もお店からかっぱらいをして自己調達したりジロウのをもらったり、自由に駆け回っていました。だんだん可愛さも増して、いつも帰って来るので、半年くらいかけて悩んだ末に、家につないでうちの犬、ジロウの妹分になりました。 
 
  お手、お座り、もすぐ覚え、ジロウのアマタレぶりを見てまねをして、すり寄ってアマタレもできるようになりました。番犬もまねして威嚇の吼え声なんてすごいものでした。ジロウの叱られるのを見ていけないことが何かもすぐわかっていてしつけなくても手がかかりませんでした。ジロウが埋めたごちそうの残りをクロが見ていてあとで掘ってちゃっかり食べていて、どうもかなり頭の良い犬のようでした。
 
  ところで何年か後、クロにそっくりでひとまわり大きい犬が飼い主と散歩しているのを見かけました。毛色も毛質も同じ、胸に白い三日月毛がツキノワグマもようにあるのも同じでした。クロの兄弟か、お父さんお母さんかな?とも思いましたが、あえて聞く気も起こりませんでした。
 
  クロが本当に飼い主を信用してくれるようになるまで3−4年くらいかかりました。いつもまた捨てられるのではないか、という不安があるようで、どこかに出かけるときはとても神経質で家族やジロウといっしょにいれば安心と思っていたようです。 
  この不安は一生続いたようでした。  

 

 

 

中へはいると怒られるかな。見られてなきゃ平気さ 。
あれ、見つかっちゃった。

ジロウがしっぽを無くして帰り、カラアゲ3個


 ジロウの小犬のころ、うちの周りはそこそこ田舎で、放し飼いで闊歩している犬も普通でした。野良犬もゴロゴロいました。飼い犬との区別は首輪をしているかどうか、で見ていました。うちの犬どもは昼間は庭に繋がれ、夜は番犬のお勤めと運動を兼ねて放し飼いにされており、本来塀で外へは出られないはずなのですが、なぜか、時たま外出し、朝帰りしていました。ひどいときは2−3日留守にして戻って来ました。
 
  クロが来て2年くらいたったころのことです。ある朝雨戸を開けると、ジロウが台所の外のいつもご飯をもらうところにうずくまっていました。よく見ると、しっぽがズタズタに切れて血がダラダラ出て、顔にも傷がありました。なにがあったのかわかりません。とにかく必死で帰って来て、朝、家のひとが出てくるのを待っていたのでしょう。父が近くの獣医さんに電話して往診を頼みました。

  先生を待つ間、「おまえ、夕べの残りのトリのカラアゲ食べる?」、と聞くと、「モチロン!」というわけで、カラアゲ3個をパクッと食べて、それから手術に行くことになりました。(本当は術前に食事は禁止です)

 しっぽは短く切らねばなりませんでした。ジロウ自慢の正統派柴犬のシンボルであるりっぱな3重に巻いたしっぽが、人差し指くらいの長さになって帰ってきました。
  手術のため毛を刈ってあるのでさらに滑稽で、うれしいとウィンナーがピコピコ動くようで恥ずかしくてとても外へは連れて行けません。短くてお尻から風邪をひくのでは、と心配していました。しかし本犬はまったく気にする様子はありません。生まれたときからこんなしっぽだったさ!という感じで元気いっぱい、だんだん毛も伸びてくるとバニーガールのおしりのしっぽみたいでした。

  ギリギリお尻の穴にもフタが出来る長さがあって良かったです。このあとも12−13年生きたわけですからまったく支障なかったのですね。
  晩年はしっぽの先が擦れるのでしっぽカバーを包帯で作って着用させましたが。

 

 

夕暮れ時に海岸へお散歩に行くんだ。西日を見ながら波うち際を歩くのは最高さ!
 でもオレはとにかく高い所と水の上が苦手。こんなところに乗せられたらクロは堂々としてるけど、オレは縮こまってやっとカメラ目線さ!

 

ジロウと桟橋

 ジロウのクロも海岸のお散歩は大好き。海藻やサカナの匂いは嗅げるし、ウンチのあと後ろ足で砂をシャカシャカかけるのも気持ちいい。でもジロウは海の水は大嫌い。 波が来ると飛んで逃げる。
 
  小さいころは海水浴にもトライしたが、死にそうに嫌がるので断念。もがくので抱っこして海にはいるこちらのほうが引っかき傷だらけになりました。ようするに水がこわいようでした。 海岸のお散歩の折り返し点は桟橋。
 
  木の板の隙間から海面が見え波でチャプチャプ音がする。ジロウは3歩動くと腰が立たずしゃがみこみ、引っ張っても歩きません。だっこして桟橋を先に進むと、ハーハーしながら、なぜか空中で4つ足で懸命の犬カキです 泳いでいるつもり、あるいは、いつ水に落ちてもすぐ犬カキで対応できる、そんな感じなのです。 
  そのしぐさは臆病犬丸出しですれ違う人の笑いものでした。一方、クロは桟橋も平然と歩き、海や景色を眺める余裕で度胸が違いました。

 

 

 

 

軽井沢の山荘に避暑に招待されたんだ。降りてきちゃった、ここにいていいかな。
なんか注目されてるぞ、オレの話題かな。 
たまには山もいいもんだ、カミナリだけは懲りたけどね。


カミナリで12万円


 ジロウとクロが軽井沢の瀟洒な山荘に招待されたときのことでした。夏の訪問も数回目になったころ、家人は夕食にお出かけで、犬2匹がお留守番でした。ジロウは家の中をひそかに探索しかねないので玄関に繋がれ、賢いクロはいい子だから大丈夫、と信頼厚かったため放したまま玄関に置いていかれました。

  その夜はすごいカミナリになりました。お食事が終わり雨も上がって家人がご機嫌よく帰って来、た、ら、、、、。ジロウは確かに繋がれて玄関にいましたが、ドアから床からまわりじゅう犬のガリガリの爪あとだらけ。そしてクロの姿がない、、、、。居間への階段の端は歯型がついて、ところどころ噛み千切られていました。 
 
  そして居間の高級輸入家具の帆布張りのイスは噛み跡とともにクロの歯茎からの出血で血みどろ状態。そこでクロは申し訳なさそうに縮こまっていました。それを見て帰ってきたほうも放心状態です。「新建築」(月刊誌)に載った別荘もズタズタ、ということになり、うちは平謝りでした。そして家の修理代が、安くしてもらっても12万円!!
  その後5年間ご招待は来なくなりました。

 

 

 

 

千葉の家は好きなんだけど高いところは昔から苦手なんだ。座ったらもうフリーズして動けないよ。おい、クロ、ニオイかぐんならいいけど、後ろからつっつくなよ。

 

ジロウのネズミの死体振り回し事件

 ある日、実家に帰った私は、ジロウを寝ていた縁の下から呼び出しました。縁側に喜んで顔を出したヤツの口がなんとなく臭いのです。「?」、と思いましたがそのまま他の用事をして、再び縁側を見ると、ギャーッ! 
 
  ジロウがどこから探してきたのかネズミの死体を咥えて得意げに見せびらかしているのです。それももう変色しておなかが腐って虫がびっしりたかっているやつです。こちらも気持ち悪いのですが、なんとか取り上げて捨てようと思っても、ますます調子に乗って振り回しながら庭中逃げ回りとても離してくれません。クロもネズミの臭いを嗅ぎに行きましたが、「フン、こんなもの、何がいいの?」という顔です。
 
  ジロウのはしゃぐ様子をクロは冷ややかに眺めていました。やっとのことでお菓子で釣って離してもらい、木の枝で挟んで死体は捨てましたが、クサイクサイ、ジロウの口といっしょの臭いです。あとでジロウの顔を見るとまたギャー、です。
 
  鼻、口、ヒゲのあたりに黒ごまを撒いた様にダニがついてしまって、指で摘んだぐらいじゃ取れません。獣医さんに聞いて、蚤、ダニ落としのリキッドを教えてもらい、早速買って来て使ったら、ほんとに2日できれいに落ちました。
  まったく変な病気にならなくて良かったよ。ずっと先代の名犬ノンコ(コッカー)がやっぱりたまに鳥の死体を咥えて見せに来たけど、こんなに腐ったやつには手を出さなかったぜ。

 

 

おまえよく平気だな。おれは家にはいりたいよ。

 

クロ、ジロウに呆れる

 頭の抜けているジロウがある時、どこからか縁の下の奥のほうに入り込み、出られなくなってしまったことがあります。夜になっても出られず、エサも水もなしでキャンキャン情けなさそうに泣き喚くだけ。こちらも父が泥まみれになって這いつくばってなんとか引っ張り出せないか、と頑張ったのですが結局ダメ。
 
  翌日大工さんに来てもらい、中廊下の床を鋸で切ることになりました。作業のその間、クロはもう心配でウロウロ。これ以上心配なことなことなどない、という顔つきで作業を見守っていました。
 
  そうしてジロウが無事に救出された!! 出てきたジロウとクロは一瞬2匹でじゃれ合ったものの、クロはすぐいつもの冷静なクロに戻りました。
  「まったくジロウ兄ちゃんはほんとにアホウだ!!」。

 

 

 

枝垂桜の葉っぱでできたムロがオイラのお気に入り。芝生を飛びまわったあとここにはまると落ち着くね。ゴキゲンだよ。


都心のアパートより遁走事件

 いつだったか正確には覚えていないのですが、ジロウがまだ元気だった12−13歳頃の話、そうそう、その時牛込警察署が建て替え中で、牛込消防署の隣の建物に仮住まい中でした、そのころのできごとです。

  1月の成人の日の連休前後で、大雪が降ったため、我が家の犬2匹は外で濡れて凍ったらかわいそう、と五番町へ数日間、避難していました。雪が上がった日、まだ路面にはかなり雪が残っていましたが、そんな夕方、わたしが仕事から帰ってきたら、ドアの新聞受けの下の牛乳入れ?の開き戸があがっているのです。
 
  ???と思いつつ、中へはいったら、呼べど探せど、2匹ともいないのです!!!
それから大騒ぎになり、家の人に連絡したり、手の空く人をたのんで近くに来てもらい、ジロウ, クロ、と叫んでこの近辺を探し回りました。2匹とも土地かんがないので帰ってくるのは無理でしょうし、車が多いので(ただこの日は雪があったのでラッキーなことにやや少なかった)轢かれてしまう、と真っ青です。

 
  私も、アパートの中からはじめて、駐車場、散歩していた土手、その辺を名を大声でよびつつ探し、犬の散歩のひとには声をかけて犬を見なかったか聞き、五番町の交叉点ではその辺の人に犬を見ませんでしたか?と訪ね歩き、そうしたら、黒い犬が大分前にここを走り抜けていたよ、と初めて目撃談を得ました。

 市谷の交番にも行きましたが情報はなく、ただ見つかったら連絡を頼むのみ、麹町4丁目の交番にも出向いて連絡を頼みました。 
  家に戻って四谷の交番にも電話で頼んだり、車で走りまわって犬の陰をさがし、公園や空き地、工事現場などは降りて呼びまわりました。もう悲惨でした。いろいろ思い出すと、前にもオス犬が春先の雪のあと、行方不明になってしまったことがあったのです。 

 

  だんだん暗くなリはじめた頃、ここの駐車場でクロを捕まえた、との一報が入りました。クロは、どうやらあまり遠くへ行かなかったようなのです。とりあえず1匹良かったあ、と思いつつ恐縮しているクロを部屋に入れ、ジロウのほうが心配で飯田橋の方の土手を探しました。もう真っ暗で寒いし半ばあきらめつつ、その辺にあった交番に尋ねてもやはり知らないとの返事。

  思いなおして、ここはどこの警察の管轄ですか?と聞くと牛込警察とのこと、まだ聞いてないな、と思い家に帰ってまた電話してみました。
しっぽが短くなった柴犬で青い首輪で埼玉県の鑑札つけている犬を探している、というと、ちょっと待ってください、なにかもごもご言う声が聞こえ、その犬かどうかわからないが、今日3時ころパトカーが箪笥町、矢来町近辺で茶色い犬を保護し、車に乗せられて署にきて、遺失物だったと思うのですが、とにかく居るというのです。もう8時すぎになっていましたが、すぐ行きました。
 
  結構遠くて驚きましたが、到着して、窓口で事情を話すと、仮住まいの建物の裏の駐車場の隅に案内され、そこに犬小屋がありました。中に茶色い毛が丸まって寝ているのが見え、おそるおそる、ジロウ、ジロウ、と声をかけるとやっと起きだし、顔をみるとやっぱりジロウだ!!!!!、とこの感激は一生忘れません。あいつは毛布をひいてもらい、ドッグフードと水まで親切にもらって寝ていたのです。でも食べてなかったけど。寝ぼけた顔で私を見ると、あいつはまるで迎えに来て当然という感じで、ブルブルと身震いしてのびをして、あ、来たのか、帰ろうぜ、という調子でこちらの心配もなんのその、のそのそと出てきました。あんまり喜ばないなあ、なんておまわりさんにも言われて、大感激していたのは私のほうでした 。
 
 まあとにかく良かった、パトカーのおまわりさん、拾ってくれてありがとう。あいつは甘えん坊だから、きっと不安になって歩きつづけていてやさしく声をかけられて、寄っていって好きな車に乗ったのだと思います。 
  それにしてもそんなに遠くまでどうやって行ったのでしょう。靖国通りや外堀通りを横切ってよく轢かれなかった、と運が良かったのですね。帰ってきてからは疲れてずっと寝ていましたよ。
 翌日、警察署にみかん2キロ買って御礼に届けに行きました。

 

 

 

モテ犬クロ

ロは年をとるまでオス犬にモテモテで、これはどうも、ちょっと謎めいてそっけない点がモテる秘訣のようでした。向こうが狂ったように興味を示しても知らん顔がほとんどでした。ジロウは兄貴分で最高のコンビでしたが、どうもクロにすると、気が小さくてちょっと抜けていて無邪気すぎる点が男としては物足りないらしいのです。 
  ジロウの必死のモーション、クロの顔を舐めまわし、体を舐めまわし、手でちょっかいチョンチョンやられても、無視して、あまりしつこいと、ワン!と一撃でジロウしょんぼり、、、、のことが多かったように見受けられました。時々クロがシッポを上げてジロウに匂いを嗅がせてあげて、ジロウがうれしそうにクンクン、うっとり、していました。夜は2人仲良くぴったりくっついて並んで寝ていた時期もありました。夜間は2人だけで自由に庭で遊んでいたので詳しいことはわかりません。

  クロがあまりにモテるので、千葉でいっしょに散歩に行ったとき、ちょっとオスに愛想のいい顔をしたクロに、ジロウが突然鼻先に噛み付いたことがありました。クロの鼻の裂隙のところがちぎれんばかりに噛み切られ、血がダラダラ、「オイ、オマエ、横恋慕するな!!」、というジロウの気持ちもわかるけど、ここはがっちり叱りました。ダイジョブか、とオロオロする私の前で、クロは冷静に平然とハナ先を舐めまわしていました。
  そのうち、したたる血も納まってきて、ハナもちぎれずに済み、治って良かったです


ジロウとポチからの追悼だよ。

 

 

 


ご主人が留守だと犬たちは‥‥‥

  クロはジロウと対照的に聞き分けの良い賢いコ、と信じられていました。外飼い犬なので東京のアパートに来たときは2匹は玄関が居場所で、上がって来てはいけないことになっていました。 
  そのアパートに滞在中のある日、朝の出勤時に玄関にいるクロに、「じゃ、行ってくるね」 と声をかけました。いつもなら寂しそうな顔なのに、そのときのクロの目はうれしそうにキラキラしていました。 
  なんか変だな? 帰って来て家族に話しを聞いてわかりました。私の出たあと誰もいないと勘違いしたクロは、5分後にはヒタヒタと爪音も軽やかにシッポをユラユラ振り立てて、家の中を探検していたのです。たまたま拡げた新聞の向こうに黒いシッポがゆれているのを見た家人が気づきました。

オレは長男、だからちょこっと玄関から上がっちゃったっていいんだ。
クロ、おまえはそこまでだゾ。スリッパ枕に寝たふりしてたけど、なんだか怒られそうな雲行きだなあ。

「こらっ!!」、と大声を出されたときのびっくりしたクロの顔! シマッタ! マズイ!、一瞬固まったあと尻尾を巻いて玄関へ逃げ帰りました。そういえば、たまに早く家に帰ると2匹とも玄関にいないことがありました。探すとジロウは机の下の隅に頭隠して尻隠さず状態で熟睡中のこともありました。 
 
 どうも昼間は好きにぶらぶらしていて、夕方暗くなってくるとそろそろ、と思い、玄関でさもずっと待っていたような顔で寝ていたのでした。ちゃんと玄関でお留守番している、と思っていたのは飼い主の買いかぶりだったのでした。  

 

 

 

ジロウとクロのごはん

 2匹の15年以上に渡るごはんは、純和風の残り物でした。つまり、「ニボシ入り味噌汁かけごはん、サカナの残り物(ホネと頭と尾)入り」でした。 好物は、うな重のタレつきごはんの残り物、鯵の焼き魚、うどん、そば、スパゲッティ、おでんの汁、シウマイ、揚げ物、、、これらにはすべて、の残り物、という言葉が付きます。  
  他に、カステラ、おせんべい、御饅頭、プリン、誕生日にもらえるケーキかシュークリーム、なんて大好きです。 

 ずっと残飯整理係だったので、ドッグフードなんて滅多に食べられないものだったんです。 晩年は、ゆでひき肉かけおかゆのカツオだし入り、牛焼肉や犬用缶詰まで登場してちょっとは豪華になりました。

ここはポチ宅の4階上に当たるオレらんちの玄関。ちょうど千葉から帰ってきた夜サ。 
クロちゃんいいなあ、だっこしてもらえて。 オレもだっこして!!
それにしても、おねえさんもオレたちも若かったなあ。
クロ:野良犬だったアタシも、ジロニイ(兄)と一緒にこんなに可愛がられて幸せだワーん。

 

 

 

ブルブル、情けないけど透けるバルコニーは怖いよ。おにいちゃん、アタシもついてるし大丈夫だよ。
 クロ、おまえやさしいな。



老犬はかわいい


 ジロウやクロ、そして同じアパートの先輩老犬ポチくんを見ていて思いました。 耳が遠くなっても、目が悪くなっても、徘徊や睡眠リズムの乱れで行動がメチャクチャになっても、老犬のかわいさは格別です。
 
  耳の緊張がちょっとゆるんで、白髪がまじり、たるみのでた顔がなんとも味わい深く、歴史を感じさせるのです。そして、少しボーッとした目線はいつも穏やかでやさしいのです。腰が曲がって後ろ足が悪くなっても、寄りかかりながらポツポツ歩く姿もまた一生懸命でかえって存在感が増します。
 
  そんな犬たちにとって、匂いや触れあい、そしてアイコンタクトは心を通じ合う大事な手段でした。不安そうな時も、近くに行ってなでてあげると落ち着きました。その目はいつも、ありがとう、と云っているようでした。
 
  老化はナチュラルコース、治療して元のように治るものではありません。それでも犬たちがなるべく気分良く、快適に過ごせるよういろいろ手を尽くしてみました。ジロウやクロから愛情をもらい、ジロウやクロに愛情を注ぎ、出来る範囲でそばに居てあげることがお互いの安心感と充実した日々につながりました。

 


まどろみの中、いろいろな想いが駆けめぐる‥‥‥
2001年 1月27日


ありがとう

 ジロウ17歳、クロ16歳、と2匹とも飼い主の膝の上で天寿をまっとうし、幸せな一生でした。多くの悦びを私たち家族に与えてくれ、精いっぱい幸せにしてくれました。また同じアパートの老犬友達のポチを通じて浅岡さんと出会い、大いに力づけられ、慰められました。

  各地の獣医さんにお世話になりました。越谷市の山田先生、館山市マーレ動物クリニックの種子島先生、さいたま市の直井先生、墨田区の谷澤先生と鍼灸マッサージ師の深沢先生、そして渋谷区ペーター動物病院の外池先生、諸先生方に心より感謝申し上げます。