とっておきのホテル
第7話
ヴィダーホテル



中世と現代を漂う


旧市街のなかに超モダンの異空間がたたずむ。

 スイスの面積は九州とほぼ同じ。その中に四つの言語が今も存在しており、ドイツ語、フランス語、イタリー語、そしてロマンシュ語と、大変忙しい。高速道路を走っていても、突然、標識がフランス語からドイツ語に変わるお国柄である。現在のチューリヒは13世紀に建造された城壁の位置の影響を受けており、かつての堀跡がヒルシェングラーベン、ザイラーグラーベン、バーンホーフ通りなどの街路である。19世紀の前半には、都市発展の障害であった外側の城壁も撤去し、現在はシャンツェングラーベン通りとしてわずかながらもその面影を遺している。このあたりからチューリヒは閉鎖された都市から解放された近代都市へとその姿を変え、現在のような大都市へと変貌していったのである。特にこの百年間にみられる旧市域内の建造物の変容には驚くべきものがある。かつての個人邸宅が商店、会社に変わり、都心部の昼間人口が激減するのは世界の大都市でも同じである。しかし旧市域には現在でも記念すべき歴史的建造物があり、グロースミュンスター寺院、フラウミュンスター寺院、ザンクト・ペーター教会などのほか、リマト川の岸にはノツンフト(同職ギルド)会館が点在しているのは見逃せないだろう。


GMのビート氏の洒落たオフィス。

「この建物も古いものですが、そこに新しい感覚を融合してみました。中世と現代がひとつの空間、時間のなかに漂っているのです。チューリヒの都市の構造的変遷とおなじように、ホテルもまたその姿、機能を変えるのです」とヴィダーホテルの支配人。眼鏡の奥の眼が、ときどき刺すようにこちらを一瞥する。


「ザ・ヴィダー・バー」でのジャズライブは人気が高い。

デザイナーの感性が光るディテールに敬服

 リマットリバー左岸側で旧市街の中心に位置するこのホテルは新千年紀を迎える「隠れ家」としては申し分なしだ。古色蒼然とした無骨な石壁と太い天井の梁に白黒の大理石を交互に配置した床、エレベーター及びエレベーターホールは全面ガラス、さらにクリスタル、スチール、クロスのオブジェを絶妙に配置した感性は、まさにデザイナーズ・ホテルの面目躍如だ。部屋は全部で49室でスイートは7室用意されている。ところでノートパソコンで海外ローミングする方に注意がある。このホテルの電話回線はほとんどがISDNなので注意が必要だ。アナログのモデムでISDNに接続するとモデムが壊れる可能性がある。チェックイン時にアナログ回線のことをかならず確認しよう。このホテルではバスルームにある電話機がアナログだったので、僕はそこからケーブルを部屋まで引いた。ホテルには専属の電話、電気に関するスペシャリストがいるので、遠慮せずに申し出よう。残念ながらホテルによっては、「インターネット使用料」を徴収するところがあるが、この悪習はヨーロッパではスイスくらいである。
「ザ・ヴィダー・バーではライブジャズが好評です」と支配人にバーに案内された。
 片隅でカップルが肩を寄せ合い、濃厚な陰影をつくっていた。


天井の古い梁が巧みに生かされていた。


WIDDER HOTEL
Rennweg7 CH.8001 Zurich Switzerland
TEL:41-01-224-2526
FAX:41-01-224-2424

ボーダー

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