初秋のクイーンズタウン(ニュージーランド)は、柔らかい風が自慢なのでしょうか。旧友のABCカレッジのMさんに「どの季節もいいでしょう」と念を押されました。清風に浴し全身の垢が落ちてゆく瞬間を実感している僕を見て、Mさんの視線は優越感に転じておりました。
原始からつづく太古の森で苔の撮影が今回の目的でした。ジュラ紀の名残りを継承する先住民族、マオリの人々の生き様もまた暗く長く辛かったのでしょう。豪州のように「よそもの」によってその文化、伝統、歴史が封印されつづけておりました。
衆参両院が「アイヌ民族を先住民族とすることを求める決議」を全会一致で採択したのは喜ばしいことですが、300年以上の歳月もまた、長く暗い歴史でありました。
アイヌ語で「人」を意味する「アイヌ」、マオリ語もまた「人」をマリオと呼称します。でもいきなり侵入してきた「よそもの」にとって先住民族は「人」扱いされませんでした。
英国のウェールズという呼び名は、アングロ・サクソン人の言葉で「よそもの」の意味です。先住民族であったケルト人系のブリトン人を西の辺鄙な土地に追い払ったヨーロッパ大陸から侵入してきたアングロ・サクソン人こそ「よそもの」であったはずなのに………
ケプラー・トラックの赤ブナ、銀ブナの巨木の陰に生きる苔、苔、苔。そして不屈の図々しさが潜んでいるような浅間山麓の苔。
チカッと妙案が閃いたような気がします。
それにしても苔が生えるって、微妙な表現ですね。
平成二十年 五月三十一日