The Original Maids of Honour


 キューガーデンで英国の伝統菓子を頬張る。英国人は一日に七回紅茶を飲むといわれる。 目覚めのベットに運ばれるアーリーモーニング・ティーにはじまり、朝食のティー、一一時のティー、アフタヌーン・ティーとつづくが、もしかしたら今の英国ではもっと飲んでいるかも知れない。お茶はもちろん中国からもたらされたものだが、それは陶磁器、香辛料と同じく一七世紀のヨーロッパにあっては大変な貴重品。一七世紀半ば、チャールズ二世とポルトガル王妃が結婚し、その手土産にインドの領地ボンベイを持参し(輸出権のこと)、以後は一九世紀初頭まで紅茶貿易を独占、大英帝国繁栄の基礎を築いたとさえいわれるほどだ。


四代目のご主人ジョン・ニューエンズさんとご夫人

  ティーの仲良しアイテムといえばスコーンですが、我が家のメイズオブオナーはさらに仲がいいんですよ」と、エクボが印象的だったニューエンズ夫人。彼女のお店は一八五〇年から続く老舗のティールーム。そしてこの店の代名詞が、伝統菓子のメイドオブオナーなのである。ヘンリー8世がレシピを宮殿の鉄の箱に隠したという逸話も残っているこのお菓子のレシピを受け継いだのがニューエンズ家であった。メイドさんたちにも人気が高かったというのが名前の由来だそうだ。その後エリザベス一世の母堂であられたアンブーリンの好物となり名実ともにメイズオブオナーは英国を代表するお菓子になった。

  その歴史は店の石碑にしっかりと刻まれている。もちろん今でもレシピは門外不出であり、メイズオブオナーを味わえるのは「ニューエンズ」だけ。外壁には、店名より大きな文字で、「The Original Maids of Honour」と書かれており、ニューエンズ家の自信と誇りには感服。四代目のご主人ジョン・ニューエンズさんは四〇代前半。「曾祖父の教えを守ることは私の自負するところですが、でも本当の誇りは彼女なんです。店内の装飾、調度品の選択もまかせております。もちろん、家の仕事もきちっとこなします。」と夫人の方に手を添えた。なんと爽やかで心地よい光景だろうか。


愛嬌たっぷりのおばさんにサービスを受けた。

 

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愉しい会話が聞こえそうだ。ほっとする午後のお茶。

 「木枠の窓辺も席ををとり、さっそくメイズオブオナーを注文した。外皮がカリカリとしており、とても香ばしい。中身はクリームチーズとカスタードクリームを混ぜたような素朴な味で、僕の舌先では、ほんのりと甘い、エッグタルトかチーズタルトという感じだった。ブルー&ホワイトのスポードのティーカップと柔らかい琥珀色のメイズオブオナーの組み合わせは絶妙だ。「仕事も家事も同じなのです。もちろん肉体的疲労はありますが、寝ると翌朝は元気ですよ。心の疲れは身体にはよくありません。心の疲れは目が覚めても疲れが残ってますよね。恥をかいても生きることを徹底して愉しむ、これが私のスタイルです。

  メイズオブオナーが高級菓子でないことも、私を救ってくれます。いわば、ふつうのお菓子なんです。私もふつうの中に生き、生かされているんです。でも、ふつうに徹することって、勇気もいるんです。」と夫人は、またエクボを刻んだ。「ニューエンズ」のすぐお隣は、英国屈指の王立植物園であるキューガーデン。次回は藤棚の下のテーブルで、メイズオブオナーをパクリとやりたい。

 

288 Kew Road,Kew Gardens, Surrey TW9 3DU

Tel:0181-940-2752(District Line/Kew Gardens 下車徒歩5分)


 

Kazarikei

 
merci

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