途切れずに燃え続ける ───
オランダ最古の窯 ───
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マッカムはアイセル湖畔にある小さな港街で、徒歩15分くらいで街を一周できるほどだ。停泊しているボート、家々の三角屋根にうっすらと雪が覆っている。

まず街の案内所を兼ねたフィリス陶器美術館を訪ねた。ここでマッカム窯のティヒラーさんとも待ち合わせているので、しばらく北国の焼きものを鑑賞。そもそもこの建物は、一六九六年に建てられた軽量所であり、一九五九年に美術館として開館した。
屋根に鎮座する鐘は一八世紀そのままであり、今も人々に時を知らせる役目をしている、と案内所のオバサンが大きな胸を張る。展示室は五つに分かれ、第一室はハーリンゲンやマックムで焼かれた一八世紀の陶器、第二室は一七世紀から一八世紀にオランダ各地で焼かれた錫釉陶器、第三室には、アムステルダム国立美術館に展示してある一五四枚からなる陶器工場を描いたタイルを復元したものが展示され、第四、五室は一九世紀のフリースランドの日用雑器などが配置されている。
印象的だったのは、第五室にあった藍絵沿岸図ポットとコンロ。そのデザインは、現在でも通用する迫力があり、広い和室にピッタリと収まる美しさがあった。 背の高い老紳士が現れた。
その人がマックム窯直系九代目のペター・ヤン・ティヒラーさんであった。
「窯の創始者の名前であるティケルアルとはレンガ職人の意味で、創業は一五九二年。今日まで続く実在する窯はマックムが一番古い」と、開口一番のオーナー。
確かに、自分の職業を名前にするところは、自信と誇りの証しなのであろう。
彼自身デルフトの工業大学で陶器はもとより、これからも続くマックム陶器のためのあらゆる勉強をした、とも付け加えた。
フリースランドは陶土に恵まれたこともあり、中世のころから素焼きものの窯があり、屋根瓦や壷、水瓶、酒瓶などが焼かれていた。


やがてデルフトと同時期にスペインから伝わった錫釉陶器の技法が北オランダにも入り、マックムがその産地として栄えたのである。一七世紀には、この小さな街に七〇以上もの窯があったというがが、現在ではティケルアル家の窯だけとなった。デルフト・ブルーがあまりにも有名すぎるので、マックムの製品は日本でもあまり知られていないが、藍に染められたものや緑、橙色を豊富に使ったマックム焼きにも独特の魅力がある。
暗い冬空に咲いた花、と表現したらよいのか、マックム焼きには暖炉のような暖かみが感じられる。
一九六〇年からこの窯は、ユリアナ女王の許可を受け、ロイヤル・マックムと名乗った。ロイヤルの称号はデルフトだけではなかったのである。
愛らしい雪に覆われた煉瓦の家並み、優しい円弧を描く石橋、そしてマックムの陶器どれもが小さな額縁に収めたいような北オランダの感傷をまたもや旅の土産にした。
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