なんでオレのふとん取るんだ。さっきまでダブルベットで、クロちゃんの腰まくらでゴクラクだったのに。
オレはすねちゃうぞ。ま、でも、ご主人のゴムゾーリのにおい嗅げるからいいか。
クロのその後
後でわかったことですが、どうもクロは生垣の脇の小道沿いにあった自転車置き場に捨てられていたらしいのです。見ていた人の話では、3日間は捨てられていた所でじっと待っていた、ということでした。その後は近くをうろうろしてはまたそこに戻る毎日だった、とか。
生垣の隙間からうちの庭に入ってきては、なぜかジロウと気が合い、ジロウもかわいがって、いっしょにじゃれてゴロゴロ転がってあげたり、自分のごはんの残り物をクロに譲っていたのです。はじめは 「あの黒い犬」、と呼ばれていた小犬も、そのうち短縮形で「クロ」、と呼ばれるようになりました。また来てる!、ジロウの遊び相手だからいいか、と、なんとなく家で認知されるようになりました。
いずれ飼い主がお迎えにくるかも、とあえて繋いだりせず、自由にさせておきました。だんだん大きくなってきて首輪がきつくなり、ものを飲み込むにも少しずつしか食べられず、気道も細くなるせいかすぐゼーゼーいうようになったので、鈴のついた緑の子犬用首輪を一度はずして、ひもで延長してあげてはめなおしました。
こうしておかないと、前の飼い主がわからないかも、と思ってのことでしたが、すぐにどこかに無くして帰って来ました。
ひとみしりする犬で用心深いため、近づくとうなられることもありなかなかなつきませんでした。
しかしこのころジロウには絶対服従で必ずジロウの後ろを1歩下がって付いて歩いていました。2匹で散歩のとき、オシッコしてしゃがんでいるクロの背中にジロウが右足を上げてチャーッと自分のオシッコをひっかけることもありましたがクロはおとなしくしていました。だんだん私が呼ぶと来てくれるようになり、なかなかさわらせてくれなかったクロでしたが、私が手を頭の上にかざすと両耳が少しずつ後ろへ動くようになり、繰り返すうち耳を寝かせてなぜさせてくれるようになりました。
まるで能面のように無表情だったので、クマの子みたいね、と言われていたのが徐々に目に親しげな表情がでるようになり、本当にうれしかったです。そしてだんだんシッポを振るようになってきたのも驚きでした。始めはぎこちなく、そのうちバサバサと振れるようになりました。
その後も庭を出たりはいったり、食事もお店からかっぱらいをして自己調達したりジロウのをもらったり、自由に駆け回っていました。だんだん可愛さも増して、いつも帰って来るので、半年くらいかけて悩んだ末に、家につないでうちの犬、ジロウの妹分になりました。
お手、お座り、もすぐ覚え、ジロウのアマタレぶりを見てまねをして、すり寄ってアマタレもできるようになりました。番犬もまねして威嚇の吼え声なんてすごいものでした。ジロウの叱られるのを見ていけないことが何かもすぐわかっていてしつけなくても手がかかりませんでした。ジロウが埋めたごちそうの残りをクロが見ていてあとで掘ってちゃっかり食べていて、どうもかなり頭の良い犬のようでした。
ところで何年か後、クロにそっくりでひとまわり大きい犬が飼い主と散歩しているのを見かけました。毛色も毛質も同じ、胸に白い三日月毛がツキノワグマもようにあるのも同じでした。クロの兄弟か、お父さんお母さんかな?とも思いましたが、あえて聞く気も起こりませんでした。
クロが本当に飼い主を信用してくれるようになるまで3−4年くらいかかりました。いつもまた捨てられるのではないか、という不安があるようで、どこかに出かけるときはとても神経質で家族やジロウといっしょにいれば安心と思っていたようです。
この不安は一生続いたようでした。
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