のどかな農道に面した ピエール・オヴルノー氏のカーブ。 |
アグロ・ビオロジー(農業生物学)の 研究材料となったブドウ。 |
ピュピヤン村でアグロ・ビオロジー(農業生物学)を応用したワイン造りを行う男 、それはピエール・オヴルノー氏だ。ブドウ栽培に化学肥料や除草剤を一切使わず、またワイン醸造に酸化防止や腐敗菌の生育阻止に不可欠とされる亜硫酸を添加せず、浮遊する酵母を取り除くための濾過も行わない。自然の摂理を根底から理解しているからこそ、余計な化学の力は借りずに健康なワインを造ることができるのだという。 |
「化学品を使用しないことで、ブドウに自然と付着しているその土地固有の酵母の増 加を助長させ、酵母の持つ本来の力を引き出すことが可能になります。だから酵母は、亜硫酸なしでも、糖からアルコールを生成する発酵という仕事を十分に行えます。
また、濾過されずにワインの中に残る酵母は、長い熟成期間中に自己分解し、ゆっくりとワインに溶け込んでいきます。これが、ワインの味や香りに複雑さを与えるわけ
です」 こうして造られるオヴルノー氏のワインは、純粋に土地の味と香りを持つ逸品に仕 上げられる。なかでも傑作は、一九八七年のコート・ド・ジュラのサバニャンだけを使った白ワインである。十一年半もの間、週に一度ワインの継ぎ足しを行いながら、木樽の中で熟成された特別なワインだ。彼の忍耐と愛情が凝縮されたワインは、深く複雑な味わいで、舌の両側と頬の奥にしみいるよう。余韻の長さといい、膨らみといい、感動的な出会いだった。百の理論を聞くよりも、彼のワインを一口飲むだけで、それが土地固有の風土を知り尽くし、ブドウの木が持つ潜在能力を最大限に引き出す手法で造られたものであることが納得できた。 |
ピエール・オヴルノー氏は ブドウ栽培に化学肥料や 除草剤を一切使わない。 |
記事はNILE'S NILEより転用いたしました。