エペルネの中心部、レピュブリック広場から東へまっすぐ延びる道は「シャンパン 大通り」と呼ばれている。白亜の市庁舎や、世界に名だたるシャンパンメーカー本社の豪壮な建物が連なる、シャンパンのメッカである。 |
街を象徴する、ド・カステランヌ社の美しい塔 |
ド・カステランヌ社からは エペルネの町が望める。 |
なかでもひときわ目立つのが、街を象徴するように空高く立つ、ド・カステランヌ 社の美しい塔だ。この高さ六〇メートルの塔は、リヨン駅の建築を手がけた著名な建築家、トゥードワールによって一九〇四年に建造されたもの。ド・カステランヌ社の威光を表現するのにふさわしいインダストリアル建築の輝きはもちろん、塔から一望できるマルヌ渓谷の眺めや、エペルネ市街の景観も素晴らしい。シャンパンを味わう前にもう、うっとりと酔い心地を覚える、そんなポイントである。 |
ド・カステランヌ社で特筆すべきことは、一八九五年の創業以来、文芸に対する庇 護を惜しみなく行ってきたことだろう。とくにベル・エポックと呼ばれるフランス文化が最も華やかに栄えた時代、一九五〇年代に始まった有名アーチストによるポスターの制作には目をみはるものがある。本社館内には、現代ポスターのパイオニアとも言えるカピエロに敬意を表して設けられたギャラリーがあり、常時、充実したコレクションを展示、一般公開している。ここを一回りすると、現代ポスターの分野における同社の貢献がいかに大きいものかが、如実にわかるはずだ。 と同時に、ド・カステランヌ社は有名アーチストだけではなく、無名の若手アーチ ストの発掘にも精力的である。毎年、広く作品を公募し、そのなかから有望と目されるアーチストに、輝ける未来への夢の扉を開くチャンスを与えようと、館内の展示室を無料で貸し出すという事業も手がけている。しかも、展示会の開催日には、招待客にシャンパンをサービスするなど、若手の発展を全面的に援助する姿勢だ。 |
一九五〇年代に始まった有名アーチストによるポスターが展示。 |
同社が彼らに要求することはただ一つ、ド・カステランヌ社のために一枚のポスタ ーを作成することだけである。そのオリジナル・ポスターのどこかに、シャンパーニュ最古の連帯の旗印に由来する同社のシンボル、聖アンドレのレッドクロスが描かれてさえいれば、形式は問わないそうだ。館内の至る所に展示されている歴代の作品を見ると、優雅に舞う貴婦人の赤いドレスが十字の形で描かれていたり、バイオリンの弦と奏者の持つ弓それぞれに描かれた赤い一筋の線を十字に交錯させていたり。芸術家の卵たちは自らの個性とセンスを主張するように、新鮮な感覚の作品をクリエイトしている。 |
澱を首もとに集める作業。 |
巨大な地下カーブには、一二〇〇万本の シャンパンが保存。 |
カビが層をなしていた。 シャンパーニュもぐっすりと眠る。 |
ド・カステランヌ社の巨大な地下カーブには、一二〇〇万本のシャンパンが眠って いる。若いシャンパンはここで静かに味と香りを熟成させ、その真価を発揮する目覚めの瞬間を待っているという。ド・カステランヌ社は暖かい目で、若い芸術家たちの才能が、シャンパンのように軽やかな泡を立てつつ、芳醇で高貴な香りを醸すときを見守っている。 |