茶褐色に変色した古い取材ノートは、僕の歴史でもあります。
 「沈黙の世界のはりつめた美しさ」記・一九八〇年四月一六日。
 
 ───イタリア中部のファエンツアで陶工の手元にレンズを向けた。被写界深度はどこまでも浅く設定する習慣を肉体化すべき。写真術でいえば深度が浅いということは、撮りたい一点だけに焦点を合わせる流儀でもある───

 

7月31日まで日本国際博覧会を記念し、瀬戸市美術館で開催しております。


 今思えば、陶工の手あかを撮りたかったのかも知れません。そんな8万点の写真のなかから300点を選択し、「ヨーロッパ陶磁の旅物語」のテーマで某電鉄会社のカルチャー講座を7月から開講しております。
  陶工の手元の裡に、自分が写っているのを再確認し一人ほくそ笑んでいるこのごろです。

 ネギは七夕で三十もの短冊を首輪に供えて散歩をしました。来月の6日から浅間山に籠もります。北海道行きは遅れそうな気配です。

平成17年 7月23日

 

 

 


 バブル経済がはじけて久しいといっても、在京テレビ各局は今でもバブルの真っ只中。IT企業の台頭でやや姿勢を正した感じですが、「テレビが無くなる」とホリエモンが吠えました。拍手喝采。
  というのは、我が家でのテレビ番組のほとんどはハードディスクレコーダー(HDR)に録画し、再生するときはコマーシャルを飛ばしてして見ます。僕のような視聴者はますます増えるでしょう。

  野村総研の試算では2009年ではHDRの普及率は44.3%で、HDRによるCMスキップ率は64.3%、約540億円の損失。単純に計算すると、2009年には、1566億円の損害になってしまうようです。スポンサーがいなければ番組は作れません。

 で、バブルといえば、新しいリゾートホテルの───シャンパーニュの泡のような───パンフ作成に携わっています。そのホテルは驚くほど豪奢なコンセプト。ドン・ペリニョンを水のように呑る「時持ち」「金持ち」たちの旅籠なのであります。
 
 「バブリーであらずんば、ホテルにあらず !!! 」

 


 

 大河ドラマの「義経」の時代で興味あるのは時代背景です。とくに場面場面に登場する小道具には特に注目してます。

「義経」ではまだ見つけていませんが、平安時代に流行った「貝合わせ」に縁をいただきました。というのも我が家に遊びにきた友人が、イギリスのアン王女婚約記念に制作されたティーポットを割ってしまったのです。

 その詫びとして戴いたのが写真の「貝合わせ」。知人の数寄者の話では、なんと江戸中期の絵付のようです。その優美な姿は僕の著作でも紹介しております。平安時代から国風文化が生まれましたが、この時代はある意味では400年にわたる壮大なバブリーな文化なのかもしれません。

  奢れる者も久しからず
  ただ春の夜の夢の如し
  猛き者も遂に滅びぬ
  ひとえに風の前の塵(泡)に同じ

 この夏から「老犬力の魔法」の取材で全国の老犬巡りをします。まずは故郷である函館からはじめる予定です。

 

平成17年 6月24日

 


 

 
 贅沢な晩餐でした。所は神田明神下「左々舎」。名付けて第一回「レアウイスキーの会」。会員は発会と同時に決まった名誉会員2名に茶坊主役の僕です。会の細則はまだ決まっていませんが、飲兵衛なら飛び入り参加歓迎というのが名誉会員の意向のようです。
 
  ラフロイグ30年になんとチェイサーがポメリー、「左々舎」の親爺様の腕も酒たちに負けてはいない。厳選されたフグとタイの刺身、焼き物などの料理がさらに盛り上げてくれました。はじめて呑んだラフロイグ30年は稲富孝一博士が表現されるようなバニラの香りが鼻孔をおおいました。ウイスキーにバニラ香とは感動の極みでした。で、「今月の特集」は以前取材した名門クラガンモア蒸留所です。

 


 
 

 お花見は数回愉しみました。今年は風もあったせいか、桜花が一枚、2枚と絵付師のK氏から戴いたぐい呑みに遊びにきます。例によってネギは稲荷寿司を虎視眈々と狙っていました。

 

 

 ヨーロッパ陶磁器の中国語翻訳シリーズの3冊目が刷り上がりました。今回は北欧編です。今、巷を騒乱している反日運動は政体としての中国の問題でしょうが、僕は中国の国体(民族のDNA───具体的には玄奘、孔子、鑑真、そう白色磁器を生んだ風土)とおつき合いしております。
  ほとんどの人々が人民服をこぞって着用していた20年以上前に中国各地を何度も訪れていましたが、みな親日でした。人々は学校で教わらなくても、「世界史」をしっかり身につけているように思いました。アジア、アフリカ、南米の歴史を語るとき、忘れてはいけないのは「世界史」との関わりと思います。

 5月17日はポチの三回忌。たかがワン公の死ですが、ネギと一緒にいろいろなことを思いました。


平成17年 5月18日

 


 「ヨーロッパ陶磁人形図鑑」で、まずアイリッシュ・ドレスデンの撮影。優美で繊細なレース文様も魅力的ですが、やはり艶やかな表情を狙いました。
  話は飛びますが、アル・パチーノの「シモーヌ」観ましたか。映画のみどころはハリウッドに彗星のごとく現れた完全無欠の女優、シモーヌの実の正体です。コンピュータ・ソフトをもとに、夢のような美貌と魅力を持つ究極のヴァーチャル女優シモーヌを作り上げると、アル・パチーノ演じる監督は彼女を自分の意のままに操って新作を完成───というお話です。
 白い磁肌の淑女たちも、僕のレンズ越しには思いのままでした。
 
 

 最近はスタジオと暗室が同居しているようです。基本的にライティングは1灯ですが、撮影後でも画像の色温度や露出補正そして自作プラグインでの補助光を追加するなど従来では考えられなかった撮影ができます。
 上の写真はモチーフを3分割しての撮影。これをPowerBookで合成するのです。銀塩の中判サイズ以上の解像度となるわけです。正確な光軸移動のために、10年間使ってなかったベローズのレールが役に立ちました。

 ネギと桜祭りに参加してました。最近の靖国神社は若い人たちが目立ちます。そういえば、現在観客動員数を誇っている「ローレライ」の試写会では、2000人ほどが20代、30代の若者でした。「祖国を護る」と清澄な目がきれいだった妻夫木聡でしたが、感動した「さよなら、クロ」の彼があまりにも印象的だったので、潜水艦より古い校舎のほうが似合っていたようです。ついでに艦内にいたパウラという妙な女性より耳がちょこっと曲がった黒いワン公のほうがよかったかも。

平成17年 4月3日

 


 岡山で素敵な家を取材してました。K夫妻は10年前に築100年ほどの農家に移り住みました。太い梁、漆喰の仕切壁そして囲炉裏のある居間。土間をステージにしてジャズコンサートも開くという。
 なんと羨ましいご夫妻ではないでしょうか。まことの「豊かさ」を学んだような気がしました。
 
 

 学生時代の先輩古賀俊昭さんの「授章祝賀会」に参加。千名を超える参加者には驚きでした。新撰組の土方歳三に憧れ、彼の生誕地ということだけで、なんの人的地盤もないのに日野市の市議選に出馬し見事当選。以後は都議として政治活動に励んでおられます。
  一言でいうと「実直で誠実」が古賀さんの印象でしょうか。

 写真左「釉下彩花鳥図花瓶」は二代目加藤杢左衛門の傑作。愛知万博開催記念として「瀬戸陶芸の精華展」が三越本店(3月9日から21日)で開催されます。
 写真右 菜の花,うどの白煮でひな祭り。といっても我が家には女子がいませんが五節句好きのネギのためのお祝いです。


平成17年 3月3日

 


 茶道といえば女性の嗜み、というイメージがあります。今年の初釜もほとんどが女性でした。和服を召した方がたは確かにうつくしいですが、何か、何かが不足しているような気がしました。茶道は所作の美でもありますが、カメラのファインダー越しに眺めると、圧倒的に男性のほうがキマっていました。
 
  その理由は分かりませんが、もしかして、茶道って男の世界なのかなと思いました。時代劇での茶室って、みな男ばかりですね。風雅な会話は飾りのようなもので、生臭い話が中心となってます。当然感情も高ぶりますが、亭主の所作や選び抜かれた道具たちが彼らの高ぶりを抑える役目をしているようです。

 現在の男たちにとって、茶室はゴルフ場、料亭、あるいはナイトクラブに変わったような気がします。「ナイスショット ! !」「まぁ、まぁ一杯」ということでしょうか。
 
  そういえばロイヤル・コペンハーゲン窯付属美術館の学芸員が言っていました。「ティーセレモニーの茶碗はどうみても男性の手の平のサイズを計算したもの。それは性差別ではないでしょうか。」
 ウム、たしかに夫婦茶碗など日本の器には性別があります。子供用の茶碗もあります。
  これって差別ではなく、文化であると思いますがいかがでしょうか。

 先月の23日はネギの誕生日。9歳になりました。人間でいうと初老の域にさしかかったあたりでしょうか。節分には茶会がありますが、、「神前に供えられた大豆が楽しみだぁ」とネギの眼が語っておりました。

平成17年 2月1日

 あけまして、おめでとうございます。

 「あっ、ウチの犬と同じビーグルだぁ」と駆け寄ってきたのは亀岡八幡宮の巫女さん。で、ネギと記念撮影と相成りました。

 昨夜の雪もとけ、今日は青空が高く気持ちのいい元旦。さっそく茅の輪を左回り・右回り・左回りと、八の字を書くように三度くぐり抜けました。これで半年分の疫病や罪穢が祓われるらしいです。罰あたり覚悟ですが、日本のカミガミは便利で都合がいいですね。

 年頭にあたっての抱負は特にないですが、今年も素晴らしい造形をカメラにおさめたいものです。

 僕が制作しているキリンビールのサイトでは、マイセンの特注ビヤマグが発売から1ヶ月で完売しましたが、この勢いは我がものとしたいものです。それにしても柿右衛門の造形に惚れ込んだ三〇〇年前のマイセンの職人たちの意地と誇りを僕なりのプリズムにかけて分光し、今年はあらためて伝統、再創造、手業を学びたいです。


平成17年 1月1日



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