スペイン・アルハンブラのパラドールで。

  
  岡 圭介が先月急死した。53歳だった。20数年来、家族ぐるみでつき合ってきた友人でした。勤務先の講談社では異例のスピード出世。小説現代編集長を経て最年少で局長まで龍のごとくのぼりつめました。

  すらっとした長身。栗色に髪を染めあげていた彼は、女性にもよくもてていたのを思い出します。数年前、彼とスペインのパラドール(国営城館ホテル)巡りをしました。レンタカーを借り、トランクには買いだめしたワイン、アニス酒がごっそり。夜ごとほくそ笑みつつ抜栓し、生ハムをつまみながら二人晩餐を愉しみました。

 「53歳の若さで‥‥‥さぞ悔しかったでしょう」「強度なストレスがクモ膜下出血を招いた」など彼を知る人たちの声が虚しく思えました。僕からみると、彼の時計は1日36時間。つまり80年ほどの人生が凝縮しているのでした。ストレスの強烈な自覚の裡にこそ発想の妙が在るのです。
  まあ、ストレスの自覚がない僕と岡 圭介との決定的な違いは、発想の妙にあったのでしょう。
 もとより、なにごとも無自覚は最悪でしょうが‥‥‥

 非凡な純粋主義者であった岡 圭介と三島由紀夫を語ったアルハンブラの想い出が尽きません。
  ストーンズが流れる葬儀で親交があったアラーキーこと荒木経惟氏が、デスマスクにしずしずとレンズを向けていました。

合掌。
 

平成17年 12月2日

 


 「我々の大先輩であるイマリの国からどうして遙々と?」
  25年前初めてマイセン窯を訪れた時、柿右衛門、インドの花を写して40年という老絵付師の第一声でした。その後何度かマイセンを訪れていますが、仕事で僕が好んで選ぶのがこの写真です。
 今回は某新聞の一面広告のためモノクロームの原稿となりました。 色彩を消し去ったこの写真は、印象がシンプルになっただけ25年前の記憶が昨日のように蘇りました。


 浅間山の家で長尾知可子さんの作品を撮影。グラスに精妙に彫られた高原の野花は、爽やかな叙情をたたえていました。



  
  陶芸家山口さんの見事な蓋付深鉢を手に入れました。シルエットが何故か鬼の形相に見えてしまうこの作品で、山口さん持参の猪肉、笊いっぱいの栗タケ、ナラタケ、ミネしめし、ヒラタケハイイグチ、ヌメリスギタケモドキなどのキノコたちをさっそく戴きました。もちろん彼自作の五味子酒、ザクロ酒、山葡萄酒が晩餐をさらに盛り上げてくれました。
 H氏が差し入れてくれたグラッパ、ジンと魔法の薬膳酒、アンゴスチラ・ビターが、午前5時ころ僕らにとどめを刺しました。

 

平成17年 10月30日

 


 久しぶりにヴェルサイユのトリアノン・パレスで仕事してました。1910年創業のこのホテルは、マルセル・プルースト、フランソワ・コティ、ジャン・ギャバン、マリーネ・ディートリヒらに愛されたフランスの名門であります。
 旅のお守り役である2代目ポチの肖像の背後にぼんやり見えるのがヴェルサイユ宮殿。「ホテルを旅する」のが僕のテーマでもありますが、このホテルの魅力のひとつがバスタイム。そう、「朝寝・朝酒・朝風呂」という極上の怠惰が約束されているのです。

 各室にはブロードバンドの設備があり、重い画像のやりとりも可能になりました。ただ回線利用料が1日で25ユーロとはかなり高いですね。ここは従来通りアナログ回線との使い分けでしょうか。

 お酒とジャズの大先輩であるH氏から嬉しいメイルです。
  「そして、ジン&ライムのヘミングウエー的な呑み方。
アンゴスチラ・ビタースを2滴たらします.....味が.......お愉しみに。
という事でアンゴスチラ・ビタースも持参します。」アンゴスチラといえばヒトラー生存説の根拠だった南米の別荘を連想しますが、ここでヘミングウエーが登場するとは驚きです。はじめてのカクテルに興味津々ですね。

 ネットで調べましたら「特効薬は、いや特効酒は、なんたってもアンゴスチラ・ビター。この酒は、ドイツ生まれのフランス人軍医Johan Gottlieb Benjamin Siegertが、南米のベネズエラのアンゴスチラ町の英国陸軍病院で、1824年に開発した、れっきとした医薬品。当時は、軍人のための健胃・強壮剤であった。」(引用 ショットバー ピーポッポ)

 ヘミングウエーといえば「老人と海」ですね。30年ほど前に映画を見た記憶がありますが、さっそく4THメディア で鑑賞。スペンサー・トレイシーがカッコよかったです。


平成17年 9月30日

 

 昨年は子供のクワガタでしたが、浅間山麓の我が家に立派な角をもったカブトムシが迷いこんできました。
  その風貌は求道者のように、ある一点をじぃーっと見つめているようでした。

 

 キーボードの上で遊ばせると、しきりに「P」に向かいます。離してボードに乗せるとまた「P」へ進むのです。光や位置、傾きの関係かなと思い、パソコンの向きを変えてもやはり「P」なのです。

 どうしてでしょうね。気になるところです。

 翌朝、彼は添えていたキューリの傍で逝っていました。その威風堂々たる姿はまさに大往生。彼の背中に意地と誇りさえ感じました。

 マウスのアップルマークより似合いそうなシルエットでしたね。動かなくなった彼のお腹を押すと体液がキュッ、キュッと泣いていました。

 


 


 昨年も紹介した草津の陶芸家、山口洋史氏のギャラリー「美土里の洞」(090-2932-8419))が北軽井沢の交差点へ向かう村道沿いに新設されました。点描練上という氏独自の技法で焼成されたモザイク文様の大鉢を陽光が優しく包んでいました。
 山口家の名犬ハチと我が家の駄犬ネギとの対面は、この夏に無事果たせました。

 

 ソプラノの岩崎さんのご実家から届いたマスカット。なんとシャンパンとの愛称が抜群でした。切ないような甘さが印象的でした。

平成17年 8月27日

 


 

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