「悲しみよ、こんにちわ」
中学生のころ、セシールカットに興味を持ちました。女子なのに単髪。清潔感のなかにほんのりと得も知れぬ甘い香りが潜んでいるようでした。サガン原作の映画から流行ったセシールカットだったのですね。
30年ほど前、パリ画壇の長老10人のアトリエを取材・撮影。「このアパルトマンに何たってかな、サ、サガンっていうオンナが住んでいるよ。」
わざとらしく無関心を装ったサロン・ ナショナル・デ・ボザールの会長さんだった。サガンは、パリの保守層ではフシダラなオンナの代名詞だったようです。
小さなキャンドルの炎が風もないのにふぅーと消えてから、よぎったフレーズが「悲しみよ、こんにちわ」でした。
「堕落するのは私の自由」と薬物で逮捕される時に語ったサガンでしたが、「人は堕落できても、堕落しきるほど強くはない」とは坂口安吾。そんなこんなを考えながら、我が家近くの雑木林を撫でるように確かめております。

お茶大と筑付にはさまれた銀杏並木のゆるやかな坂(↑)。某マーキング跡をチェックしつつ、さらに数分歩くと「占春園」(黄門さまの弟君の屋敷跡)です。
自分と一体化したい雑木林。
虚実の境を消せるのが雑木林の魅力なのかもしれません。写真でもおわかりのように手付かずの木々がうっそうと佇んでおります。
手付かずと云えば根性剥きだしのお三人でした。先日、相次いで木村多江さん、寺島しのぶさん、そして「私の児童虐待」をひっさげた柳美里さんの撮影がありましたが、桐野夏生、若松孝二という凄ましいお二人に作品を通してさらに鍛えられたようです。「悲しみよ、こんにちわ」も吹き飛ぶような演技を求められたと女優さんは口を一文字に結んでおりました。
生身の表現者たちとの5時間でした。
南フランスの別荘地での少女の叫びと囁き────レベルが違いすぎましたかな。
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